気が付けば7月も後半に差し掛かっている。
例年より少し早く、そして短い梅雨が明け、
連日のように気温が30度を超えていた。

社会人になって4か月が経ち、
仕事の行き来以外ではあまり外に出ていなかったから、
今が7月ということも、夏が始まるということも、
すっかり忘れていた。

母校の野球部が勝ち進んでいるという情報をもとに、
もうそんな時期なのかと悟ったほどだった。

思ったよりも社会人というものは大変で、
休みを楽しみに週の大半を過ごしていることに気が付いた。

そんな夏が始まった日の日曜日、
久しぶりにカフェに出かけた。

歩くだけで汗ばむTシャツ。
生暖かい夏の風が、私の全身を包み込む。

5分ほど待って電車が到着した。
夏の電車は異様なほどに冷房が効いており、
かいた汗も一瞬で引くほどだった。

夏になると、なぜか学生時代を思い出す。
高校ではなく、中学時代の夏の記憶。

夏の暑さは若者の熱気をあっけなく飲み込み、
教室の中は扇風機のかすかな音と授業をする教員の声しか聞こえなかった。

夏になるとプールの授業が始まる。
水泳を楽しみにしていたというよりは、
授業の後の昼寝がたまらなく好きだった。

窓から入るあたたかな風に、
塩素の香りが教室中を駆け巡る。

そんな中学時代に思いを馳せ、
もう一度戻りたくはなるものの、
本当に戻ってしまっては困ることも多いから遠慮しておく。

そんなことを考えながら、電車は千駄ヶ谷についていた。

 

今日も気温が30度を超え、
熱を帯びたアスファルトから悲鳴が聞こえる。
そしてその悲鳴を全身で受け止め、
私の体も熱を帯びていった。

駅から歩くこと10分。
駒込カフェというこじんまりとしたカフェにたどり着いた。

 

店内は程よく冷房がきいていて、
熱を帯びた私の体も、ほどなくしてもとに戻った。

静かな店内にかすかに響くクラシック。
穴場と呼ぶには十分すぎるそのカフェに、
私はすぐに虜になった。

アイスコーヒーとピザトーストを注文し、
クライマックスを控えた「52ヘルツのクジラたち」を読み始めた。

注文したピザトーストは、
懐かしさを感じさせる味わいで、
その懐かしさを、コーヒーの苦みが大人な想いに上書きしていく。

気が付けば2時間が経過しており、
コーヒーも底をついていた。

店を出ようか、それともコーヒーをおかわりしようか迷っていたが、
汗をかきながら店内に入ってきたか男女を見て、
今外に出るべきではないなと感じた。

2人は私の隣に座り、その横で私はコーヒーのおかわりとチーズケーキを注文した。

「チーズケーキもお願いします。」
私がそう言った後に、隣に座った男が「チーズケーキあるって!」と嬉しそうに言った。

そんな些細なやりとりも、夏のおかげで物語のように感じてしまう。

 

結局私は3時間ほど滞在していた。
外はまだ明るかったが、時刻は18時を回っており、
夏の日の長さに騙されていた。

 

夏の日差しを受け続けたコンクリートからは、
先ほどと同じように熱を感じる。

熱をまとった風が、再び私にまとわりつく。

 

 

そうして今年もまた、夏物語が始まった。

 

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