最後の夏山

最後の夏山

今年の夏は終わったのだろうか。 9月に入り真夏の様な厳しい暑さは過ぎたように思えた。セミの鳴き声も遠くなり、高らかな秋の虫の鳴き声が響くようになっていた。 会社の先輩から「山に登りたい友達がいるんだけど…」と相談をされてから1か月。私と会社の先輩、とそのお友達の3人で千葉県の鋸山へと行くことになった。 鋸山は標高330mの低山で、日帰り登山が可能な山だ。過去に2度登頂したことがあり、山と海の両方の景色を楽しむことができる山だ。 標高の高い山から望む稜線も好きだが、この山の景色も私は好きだ。 鋸山の最寄り駅は浜金谷駅。自動改札機は1つしかなく、16時になると駅員はいなくなる駅だ。 朝9時過ぎに駅に着き、のどかな自然に胸が高鳴った。 遠くに見えるのが今回登る鋸山。かつて採石場とされていたこともあり、岩場の削り跡も見どころの1つである。 登山道に入り進むこと10分。低山ではあるものの急登箇所もいくつかあり、低山とは言え侮ることはできない。 気候は秋らしくなっているが、山道には夏の名残が溢れている。 これまでの登山は基本的に1人で登っていた。自分の感情を整理するためでもあり、自分自身の挑戦も兼ねて一人で登ることが多かった。 誰かと登ることはほとんどなく、いつもとは新鮮な感じがした。登りながら山の話をし、辛い時に声をかけながら山頂へと目指していく。誰かと協力しながら山頂に向かうこの高揚感も、1つの楽しみなのかもしれない。 そんなことを考えていた時、私たちは展望台へと到着した。 展望台から望む港町と、港町へと向かうフェリー。開けた場所に出ると、日常での出来事を忘れることができる。 この景色を見るために、私は山に登っているのかもしれない。 展望台で少しの休憩を取り、私たちは山頂へと向かった。 山頂は展望台ほど眺望が良いわけではなく、「せっかく来たから山頂へ向かった」というニュアンスが近しいかもしれない。 今回も眺望はそこまでよくない為、山頂の標識だけ撮影をし名所の地獄のぞきへと向かった。 山頂から地獄のぞきまでは歩いて40分ほど。来た道を再度戻り、途中の分岐で地獄のぞきへと向かった。 一度下り、そこから再び登っていく。森林の中から望む海も一際美しく映った。…

真夏の谷川岳へ

真夏の谷川岳へ

甲子園もベスト8をかけた戦いをしている夏の日のこと。私は社会人2年目になり、2度目の夏休みを迎えた。 3年ぶりの行動制限がない夏休み。これまで通りの夏休みであれば私は海外に行っているだろうか。 Instagramのストーリーにはそれぞれの夏が投稿されている。私はというと、甲子園を見ながら「谷川岳 天気」とGoogleで検索を続けていた。 1人旅ができず悶々とした日々を3年ほど過ごしてきたが、その中でも登山は胸が高鳴る瞬間の1つだった。 中でも谷川岳からの景色は、一度見てみたいと思っていた。   8月14日。オードリーのANNをradikoで再生しながら、自宅の千葉から谷川岳まで2時間半ほど車を走らせた。現地の空気は澄んでいて、朝6時の時点で気温が22度と夏を忘れさせる涼しさだった。   今回のルートは谷川岳ロープウェイ駅から天神平までロープウェイを使い、そこから谷川岳山頂のトマの耳とオキの耳を目指すコースだ。往復で約7㎞の道のり。   谷川岳の登山ルートはある程度整備されているものの、岩場を登る箇所が点在している。そんな岩場を登りながら、霧に包まれた登山道を進んで行った。   そういえば今回登っているこの谷川岳は、遭難事故記録でギネス世界1位となっている。 遭難事故記録ギネス世界1位。 過去にネパールの山岳地で遭難しかけたあの日の事を思い出した。最終的には現地の人が正規ルートへ案内してくれたが、もし出会うことがなければ私はどうなっていただろうか。   過去の旅を思い返しながら、1時間半ほど歩いたところで霧が少し晴れてきた。    …